市場は食文化を映し出す鏡、釜山の食卓が見えてくる
アンニョンハセヨ、K・F・Cです。K・F・Cは韓国の市場を訪ねるのが大好きです。色とりどりの食材に囲まれながら賑やかな市場を歩いていくと、それだけで大きなパワーをもらうような気がします。山と積まれた野菜。ピカピカに輝く魚。エネルギッシュに動き回る人々。そんな韓国の魅力的な市場を巡っていきたいと思います。市場マニアのK・F・Cが送る韓国の市場レポート。今回は釜山を代表する水産市場、チャガルチ市場を紹介します。
チャガルチ市場とは
釜山最大の繁華街である南浦洞(ナンポドン)から、忠武洞(チュンムドン)に至る海岸一帯のことをチャガルチ市場と呼びます。正しくは南の海岸に建てられた3階建ての釜山魚介類処理場のことをチャガルチ市場と呼びますが、その周辺に広がるたくさんの露店や、1987年に新しく建てられた6階建ての新東亜水産物市場、そしてチャガルチ市場の東に位置する乾魚物都売市場までを含んでチャガルチ市場と総称することが多いです。チャガルチ市場のチャガルチとは、昔この地域にチャガル(小石)がとても多く、チャガルのある場所という意味で「チャガルチョ(處)」と呼ばれたのが変化し、チャガルチになったといわれます。ただし、この市場では活魚しか扱わないという意味で、生きているうちにしか取り扱えないチャガルチという魚の名前をつけたという説もあり、実際のところははっきりしません。はっきりした命名者がいたわけでなく、人々が集まってくるに従い徐々に定着していった名前なのでしょう。
魚が大群で現れる市場
チャガルチ市場に足を踏み入れて、まず驚くのが並んでいる魚の量です。道の両端にずらりと並んだ露店には、隙間のないほどたくさんの魚が並べられています。イシモチ、サバ、コノシロ、マダイ、イシダイ、アンコウ、ヒラメ、舌ビラメ、カレイ、ブリ、ホッケ、マナガツオ、サヨリ、サワラ、ボラ、アジ、スケソウダラ、マダラ……。その他たくさん。魚だけではありません。貝類、イカ・タコなども豊富です。アワビ、サザエ、ハマグリ、スルメイカ、ヤリイカ、ミズダコ、テナガダコ、クルマエビ、ズワイガニ、ウニ、ホヤ、ナマコ……。これらはすべて、観光用に陳列されているわけではありません。全部釜山の人々のお腹に入ります。食堂で、家庭で、チャガルチ市場の魚は釜山各地の食卓に並ぶのです。そう、市場は食文化を映し出す鏡と同じ。釜山の人たちがどんなものを食べているのか、ちょっと深くまで潜入してみました。
市場にならぶ魚たち
イシモチ 今回チャガルチ市場を歩いていて最も目立っていたのがイシモチです。ほんのり黄色みを帯びたイシモチが大量に売られています。イシモチは焼いたり蒸したりはもちろん、鍋物(メウンタン)にして食べたりもします。
サバ サバも人気がある魚です。日本ではブリと大根を一緒に煮ますが、韓国では断然サバと大根です。サバと大根を煮て唐辛子で辛く味をつけます。塩サバも売られていました。
スケトウダラ
スケトウダラは明太子をとる魚。スケトウダラの釜山方言、メンテが明太子の語源となりました。スケトウダラはチゲによく使われます。また頭を用いた料理もあります。スケトウダラの頭だけがまとめて売られていました。
アンコウ
アンコウといえば釜山の西に位置する馬山が有名。モヤシやセリなどの野菜と一緒に煮たアグチム、鍋料理のアグタンなどが代表的な調理法です。
カニ タラバガニを見つけました。お店の人に名前を聞いたところ、キングクラブと返って来ました。韓国語にもワンケ(王蟹)という呼び名がありますが、ロシアの方から来るのでキングクラブと呼ぶことが多いそうです。茹でたり、鍋にして食べます。
アワビ
非常に高価なアワビです。刺身や蒸し物にして食べます。有名なのはアワビのお粥。薄切りにしたアワビを米と一緒にゴマ油で炒め、水を入れてじっくり火にかけます。栄養価が豊富なため病人に食べさせたりもします。
アナゴ 韓国では刺身にもします。骨ごとザクザク切ったアナゴの刺身に、チョジャンという酢を混ぜた唐辛子味噌をつけて食べます。また骨を取ってぶつ切りにしたアナゴを、網で焼いて食べたりもします。
韓国人の買い物をのぞいてみよう
市場を歩いていると、あちらこちらで値段交渉をしている姿が見られます。外国人としてはいつもボラれないか心配になるのですが、韓国人はどのように買い物をしているのでしょうか。そーっと後ろに立って会話を盗み聞きしてみました。
<イシモチ編>
店の前にたつおばさん。イシモチを指差して、
「これひと山でいくら?」
「2万ウォンです。安いですよ。」
「2万ウォンねえ……。」
「おまけもしますよ。ほら2匹。」
と言って、さっと隣のカゴからイシモチを2匹移動する。
「…………。」
「これで2万ウォン。どうですか。」
「じゃあ、もらおうかしらね。ウロコと内臓とって塩ふってくれる?」
「はあい、ありがとうございます。」
値段を聞いて渋い表情をしたおばさん。店の人はすぐさまオマケをつける作戦に出ました。しかも2匹。これで勝負が決まり交渉成立です。買ったアジュンマにどうやって食べるのか聞いてみると「そのまま焼くことが多いねえ」とのことでした。今日の夕食はイシモチの焼魚でしょうか。
<ドジョウ編>
店のいけすを眺めるおじさん。
「このドジョウはいくらかなあ。」
「はい。600グラム(1斤)で5000ウォンです。」
「600グラムなのか……。」
「普通は600グラムずつ売りますねえ。」
「うーん……。」
「安いのもありますよ。中国産。」
「家族5人なんだけど600グラムだと充分かな?」
「大丈夫。ひとり1皿ずついきわたりますよ。」
「そうかあ。じゃあ、600グラムもらおうかな。」
「はいっ、まいどお。」
韓国では肉でも魚でも斤という単位で売られることが多いです。おじさんが一瞬悩んでみせたのは値段ではなく、家族5人で食べられるかということでした。お店の人の大丈夫というセリフを聞いて交渉成立。ドジョウはチュオタン(鰍魚湯)という料理にして食べます。南部地方のチュオタンはドジョウをすりつぶして作るスープ料理。白菜、長ネギ、モヤシ、ゼンマイ、芋ガラなどの野菜をたっぷり入れ、山椒をぴりっときかせて作ります。
市場でみかけた珍しいもの
たくさんの魚の中には、えっ?と驚く珍しいものもあります。日本ではあまり馴染みのない商品の数々。ちょっとまとめてみました。
こんな干物がありました
韓国は干物の種類が豊富。日本ではちょっとお目にかかれない珍しい干物が店頭に並べられています。まず印象的だったのがタイの干物。高級魚のタイを干物にしてしまうなんてもったいない。でもどんな味なのか1度試してみたいものです。次に印象的だったのがタチウオの干物。開きにされたものが売られていました。アナゴかと思って近づいていったところ、頭は確かにタチウオ。ただでさえ平たい魚なのに開かれてますます薄っぺらくなっていました。他にもエイの干物、タコの干物、アナゴの干物などが売られていました。日本とはだいぶ違う顔ぶれです。
こ、こんなものまで食べるの?
いけすの中で細長いものがウネウネ。アナゴやウナギかと思ったら色が若干赤っぽい。店の人はアナゴというが、どうも平たいし頭がどこかもはっきりしない。チャガルチ市場でそんな生き物を発見したら、それが釜山名物のコムジャンオです。コムジャンオの日本名はヌタウナギ。夜のチャガルチ市場では、このコムジャンオを焼いて食べている姿をよく目にします。また、コムジャンオに負けないほどの奇妙さを誇るのが、水の中に沈んで動かない、ナマコのような、ミミズのようなピンク色の生き物。これは韓国語でケブル。日本語ではユムシといいます。隣で泳いでいる魚と同じく刺身で食べます。他にもクジラ(イルカ)の肉を売る店、サメの肉を売る店など、チャガルチ市場には不思議な商品がたくさんあります。こんなものを食べるのか……。と首をひねりながら歩くのも市場探検の楽しさです。
チャガルチ市場には多種多様な魚介類が集まっていました。日本と似ている部分もあれば、まったく違う部分もある。本当に市場は発見の連続です。市場に並ぶ商品は、すなわち人々の生活を表しています。韓国最大の港町、釜山。チャガルチ市場は、まさに釜山の象徴といえるでしょう。以上、K・F・Cによる市場レポートでした。
※注意:市場で商品の写真を撮る場合は一声かけるのがマナーです。きちんと許可をもらってから撮るようにしましょう。また人の写真を撮る場合も同様です。突然カメラを向けられたら誰でもいい気持ちはしません。マナーを守って観光をしましょう。
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上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2002-09-13